だまして下さい言葉やさしく
よろこばせて下さいあたたかい声で。
世慣れぬ私の心いれをも
受けて下さい、ほめて下さい。
ああ貴方には誰よりも私が要ると
感謝のほほえみでだまして下さい。
その時私は
思いあがって傲慢になるでしょうか
いえいえ私は
やわらかい蔓草のようにそれを捕えて
それを力に立ちあがりましょう。
もっともっとやさしくなりましょう
もっともっと美しく
心ききたる女子になりましょう。
ああ私はあまりにも荒地にそだちました。
飢えた心にせめて一つほしいものは
私が貴方によろこばれると
そう考えるよろこびです。
あけがたの露やそよかぜほどにも
貴方にそれが判って下されば
私の瞳はいきいきと若くなりましょう。
うれしさに涙をいっぱいためながら
だまされだまされてゆたかになりましょう。
目かくしの鬼を導くように
ああ私をやさしい拍手で導いて下さい。
永瀬清子
「焔について」所収
1950