私の猫

わたしの猫はずゐぶんと齢をとつてゐるのだ
毛なみもよごれて日暮れの窓枠の上に
うつつなく消えゆく日影を惜しむでゐるのだ
蛤のやうな顔に糸をひいて
二つの眼がいつも眠つてゐるのだ
わたしの猫はずゐぶんと齢をとつてゐるのだ
眠つてゐる二つの眼から銀のやうな涙をながし
日が暮れて寒さのために眼がさめると
暗くなつたあたりの風景に驚いて
自分の涙をみるくとまちがへて舐めてしまふのだ
わたしの猫はずゐぶんと齢をとつてゐるのだ

三好達治
測量船」所収
1930

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