あんまりにも 夕暮れが美しかったので
荷物をおいて
追いかけることにしました。
あんまりにも 夕暮れがささやくもんだから
鼓膜をおいて
追いかけることにしました。
〈夕暮れはそっと、ささやいてくれました〉
あんまりにも 夕暮れがささやくもんだから
瞳をおいて
追いかけることにしました。
〈夕暮れはそっと、ささやいてくれました〉
朱色と黒の世界
を。
ボクは停留所から停留所へと
夕暮れを追いつづけました。
風はそっと肩をゆすり
起こしてくれました。
停留所のそばに
アリと一緒に寝ている
ボクを。
高田渡
「個人的理由」所収
1969