美しき夕暮れ

山は美しい夕焼
女はナプキンをたたんでゐる
椅子にかけた その女は膝を組み重ねる
すると腿のあたりが はっきりして燃え上るやうだ

食卓 頑丈で磨きのよくかかった栗の木の食卓に
白い皿 ぎんのスプーン ナイフ フォーク
未だあかるい厨房では 姫鱒をボイルしてゐる
夕暮の空気に 女の髪の毛がシトロンのやうに匂い 快い興奮と
何かしら身うちに
熱るものをわきたてる

山は美しい夕暮
女はナプキンに 美しい夕焼をたたんでゐる

田中冬二
「晩春の日に」所収
1961

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