学校遠望

学校を卒えて 歩いてきた十幾年
首を回らせば学校は思ひ出のはるかに
小さくメダルの浮彫のやうにかがやいてゐる
そこに教室の棟々が瓦をつらねてゐる
ポプラは風に裏反つて揺れてゐる
先生はなにごとかを話してをられ
若い顔達がいちやうにそれに聴入つてゐる
とある窓辺で誰かが他所見をして
あのときの僕のやうに呆然こちらを眺めてゐる
彼の瞳に 僕のゐる所は映らないだらうか?
ああ 僕からはこんなにはつきり見えるのに

丸山薫
「物象詩集」所収
1941

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください