子供の絵

赤いろにふちどられた
大きい青い十字花が
つぎつぎにいっぱい宙に咲く
きれいな花ね たくさんたくさん
ちがうよ おホシさんだよ おかあさん
まんなかをすっと線がよこぎって
遠く右のはしに棒が立つ
ああ野の電線
ひしゃげたようなあわれな家が
手まえの左のすみっこに
そして細長い窓ができ その下は草ぼうぼう
ぼうやのおうちね
うん これがお父さんの窓
性急に余白が一面くろく塗りたくられる
晩だ 晩だ
ウシドロボウだ ゴウトウだ
なるほど なるほど
目玉をむいたでくのぼうが
前のめりに両手をぶらさげ
電柱のかげからひとりフラフラやってくる
くらいくらい野の上を
星の花をくぐって

伊東静雄
伊東静雄詩集」所収
1953

One comment on “子供の絵

  1. 長田弘の「わが伊藤静雄」(単独者の言葉、所収)を読んだばかり。「わがひとに与ふる哀歌」の同じ詩人が、これを書いた!何がかれにおきていたか、みごとな伊藤論。

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