千曲川旅情の歌

昨日またかくてありけり

今日もまたかくてありなん

この命なにを齷齪

明日をのみ思いわずらう

 

いくたびか栄枯の夢の

消え去る谷に下りて

河波のいざよう見れば

砂まじり水巻き帰る

 

嗚呼古城なにをか語り

岸の波なにをか答う

過し世を静かに思え

百年もきのうのごとし

 

千曲川柳霞みて

春浅く水流れたり

ただひとり岩をめぐりて

この岸に愁を繋ぐ

 

島崎藤村

落梅集」所収

1901

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