学校

ゆうべからおなかが痛くて
医者へ行くから今日は休むと電話をかけた
もちろんおなかは痛くないし医者にも行かない
わたしは教師だが教師だってときには
学校なんかに行きたくない日があるんだよ
だれも私を(ぼくを/おれを)わかってくれない?
あたりまえじゃないか
ひとの内部ってのは やわらかい 壊れやすい 暗闇だから
無闇にずかずか踏み込んではいけない
それが礼儀なんだよ
それくらいのこともわからないぼんくらに
(きみの気持ちはよくわかるけどね)
そんなことまでいうんだわたしは
あああなんだかほんとうにおなかが痛んできたよ
だんだんずるやすみではなくなってきたみたいだけど
とにかく今日は行かないよ
ぜったいに行かない 登校拒否だ
そう決めたんだわたしはって
こういうところは子供のときと同じだなあ
おさなごころって
こんなところに残っていたんだ
あとで女房に話してやろう
女房のおさなごころはなへんにあるか 臀部か
と考えていると娘の部屋で物音がした
とうに学校へ行っていなければいけない時間なのに
どうしたのだろう
なになに ゆうべ遅くまで勉強したので起きられなかった?
今日は行きたくないから電話をかけて?
やだなあ
やだよ

娘と二人で散歩に出かけた
ちょっと近所のつもりが電車に乗って
郊外の川原に来た
変な気持ちだがいい気持ち
ぼんやりしてたら娘が言った
おとうさん?

なあに?

あしたは学校へ行く?

どうしよう

行けば?

うん

辻征夫
萌えいづる若葉に対峙して」所収
1998

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