影絵

半欠けの日本の月の下を、

一寸法師の夫婦が急ぐ。

 

二人ながらに思ひつめたる前かがみ、

さてもくどくどしい二つの鼻のシルエツト。

 

生白い河岸をまだらに染め抜いた、

柳並木の影を踏んで

せかせかと──何に追はれる、

揃はぬがちのその足どりは?

 

手をひきあつた影の道化は

あれもうそこな遠見の橋の

黒い擬宝珠の下を通る。

冷飯草履の地を掃く音は

もはや聞こえぬ。

 

半欠の月は、今宵、柳との

逢引の時刻を忘れてゐる。

 

富永太郎

富永太郎詩集」所収

1922

 

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