私の墓は
なに気ない一つの石であるように
昼の陽ざしのぬくもりが
夕べもほのかに残っているような
なつかしい小さな石くれであるように
私の墓は
うつくしい四季にめぐまれるように
どこよりも先に雪の消える山のなぞえの
多感な雑木林のほとりにあって
あけくれを雲のながれに耳かたむけているように
私の墓は
つつましい野生の花に色彩られるように
そして夏もすぎ秋もすぎ
小さな墓には訪う人もたえ
やがてきびしい風化もはじまるように
私の墓は
なに気ない一つの思出であるように
恋人の記憶に愛の証しをするだけの
ささやかな場所をあたえられたなら
しずかな悲哀のなかに古びてゆくように
私の墓は
雪さえやわらかく積るように
うすら明るい冬の光に照らされて
眠りもつめたくひっそりと雪に埋れて
しずかな忘却のなかに古びてゆくように
日塔貞子
「私の墓は」所収
1949