寒い夜の自画像

   1

きらびやかでもないけれど、
この一本の手綱をはなさず
この陰暗の地域をすぎる!
その志明らかなれば
冬の夜を、我は嘆かず、
人々の憔懆のみの悲しみや
憧れに引廻される女等の鼻唄を、
わが瑣細なる罰と感じ
そが、わが皮膚を刺すにまかす。
蹌踉めくままに静もりを保ち、
聊か儀文めいた心地をもって
われはわが怠惰を諌める、
寒月の下を往きながら、

陽気で坦々として、しかも己を売らないことをと、
わが魂の願うことであった!……

   2

恋人よ、その哀しげな歌をやめてよ、
おまえの魂がいらいらするので、
そんな歌をうたいだすのだ。
しかもおまえはわがままに
親しい人だと歌ってきかせる。

ああ、それは不可ないことだ!
降りくる悲しみを少しもうけとめないで、
安易で架空な有頂天を幸福と感じ倣し
自分を売る店を探して走り廻るとは、
なんと悲しく悲しいことだ……
   
   3

神よ私をお憐れみ下さい!

 私は弱いので、
 悲しみに出遇うごとに自分が支えきれずに、
 生活を言葉に換えてしまいます。
 そして堅くなりすぎるか
 自堕落になりすぎるかしなければ、
 自分を保つすべがないような破目になります。

神よ私をお憐れみ下さい!
この私の弱い骨を、暖いトレモロで満たして下さい。
ああ神よ、私が先ず、自分自身であれるよう
日光と仕事とをお与え下さい!

中原中也
山羊の歌」所収
1929

One comment on “寒い夜の自画像

  1. この詩は少なくとも40年以上全く読んだことはないはずですが、特に2の部分は暗記しているわけではないけれどはっきりと、確かにはっきりと覚えています。
    中原中也の詩を盛んに読んでいた頃の自分の体の中の感覚が一瞬よみがえりかけました。中原中也!

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