両の手で掩いかくしても眼は見てはならぬものをみつめようとし
口は不埒なことをわめこうとするので
私は顏を草原にふり棄てた
ひきはがれた顏の下から従順な家畜の顏が生えた

私は風のなびくままに歩いた

街は祭日のように賑わっていたが
人々の眼はやはり家畜だった

線路をいくつ越えたか覚えていない

子供達が電線に凧がひっかかっていると騒いでいた

ふと見上げたらさっき草原に棄てて來たはずの私の顏がはりついていた

閉じた眼から涙ぼうだと垂れ 折からの入日にきらきらと輝き
口はにんまりと笑みを含んでいた

町田志津子
「幽界通信」所収
1954

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