空から降りてきた男は、
花束をかかえて
笑っている。
その着陸場は
たちまちに沙漠となる。
そこはかつての激戦地。
爆弾や銃砲弾の破片とともに、
無数の死骸を
ブルドーザーで
地ならししたところ。
その男は
空を
大股に駆け回る、
黒いマントの翼をつけた
メフィストフェレスのように。
その男の
かかえている花束のまわりには、
巨大な蛾が
群り飛んでいる。
乾ききった
沙漠の風の中で、
つねに微笑をたたえて
僕たちにささやく男。
僕たちの
眠っている間に、
突然、
稲妻みたいな閃光が、
暗夜を
ヒステリックに引き裂いた。
そこは
僕たちの手のとどかぬ遠いところだったが、
その男はすでに
そこにいた。
翌朝、
新聞を読んだら、
やたらに
「平和」という活字が眼についた。
壺井繁治
1956