接吻

臭のふかき女きて
身體も熱くすりよりぬ。
そのときそばの車百合
赤く逆上せて、きらきらと
蜻蛉動かず、風吹かず。
後退ざりつつ恐るれば
汗ばみし手はまた強く
つと抱き上げて接吻けぬ。
くるしさ、つらさ、なつかしさ、
草は萎れて、きりぎりす
暑き夕日にはねかへる。

北原白秋
思ひ出」所収
1911

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