炭屋に僕は炭を買ひに行つた
炭屋のおやぢは炭がないと言ふ
少しでいゝからゆづつてほしいと言ふと
あればとにかく少しもないと言ふ
ところが実はたつたいま炭の中から出て来たばつかりの
くろい手足と
くろい顔だ
それでも無ければそれはとにかくだが
なんとかならないもんかと試みても
どうにもしやうがないと言ふ
どうにもしやうのないおやぢだ
まるで冬を邪魔するやうに
ないないばかりを繰り返しては
時勢のまんなかに立ちはだかつて来た
くろい手足と
くろい顔だ。
山之口貘
1963
岩波文庫の『山之口貘詩集』に入っていて、読めました。よい作品だと思います。