夜の停留所

室内楽はピタリとやんだ
終曲のつよい熱情とやさしみの残響
いつのまにか
おれは聴き入っていたらしい
だいぶして
楽器を取りかたづけるかすかな物音
なにかに絃のふれる音
そして少女の影が三四大きくゆれて
ゆっくり一つ一つ窓をおろし
それらのすがたは窓のうちに
しばらくは動いているのが見える
と不意に燈がいちどに消える
あとは身にしみるように静かな
ただくらい学園の一角
ああ無邪気な浄福よ
目には消えていまはいっそうあかるくなった
窓の影絵に
そっとおれは呼びかける
おやすみ

伊東静雄
反響以後」所収
1953

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