私の帰ってくるのは此処だ

穏やかで静かなランプの光!

私の帰ってくるのは此処だ、

卓の上に柔らかく輝いているランプの光、

一つの椅子、それから鉄製の粗末な寝台、

私の帰ってくるのは此処だ、

窓の外のすさまじい颶風、雨、

電車のひびき、街の騒乱、

それらのものから私を救ってくれる光、

私はこの椅子に腰を下ろし、

この卓の上に一巻の書物を開き、

そしてこの柔らかい光が慈母の掌のごとくに

 自分を包むのを待つ、

こゝで私は静かに仕事をし、

友人を思い、

また下の部屋で仕事をしている妻を思い、

それから、それよりももっと深い熱情で

 人類のことを考える、

私はむしろ暴風を好む、

むしろ大雨を好む、

むしろ群集の喧轟と機関のわめきを、

しかし私はこゝへ帰ってくる、

汝の光の前に帰ってくる、

あらゆる希望と努力の上に汝の柔らかい接吻

 を受けるために。

 

百田宗治

1955

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