東の渚

東の磯の離れ台、
その褐色の岩の背に、
今日もとまったケエツブロウよ、
何故にお前はそのように
かなしい声してお泣きやる。

お前のつれは何処へ去った
お前の寝床はどこにある――
もう日が暮れるよ――御覧、
あの――あの沖のうすもやを、
何時までお前は其処にいる。
岩と岩との間の瀬戸の、
あの渦をまく恐ろしい、
その海の面をケエツブロウよ、
いつまでお前はながめてる
あれ――あのたよりなげな泣き声――

海の声まであのように
はやくかえれとしかっているに
何時まで其処にいやる気か
何がかなしいケエツブロウよ、
もう日が暮れる――あれ波が――

私の可愛いケエツブロウよ、
お前が去らぬで私もゆかぬ
お前の心は私の心
私もやはり泣いている、
お前と一しょに此処にいる。

ねえケエツブロウやいっその事に
死んでおしまい! その岩の上で――
お前が死ぬなら私も死ぬよ
どうせ死ぬならケエツブロウよ
かなしお前とあの渦巻きへ――

伊藤野枝
「青鞜 第二巻第一一号」初出
1912

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