心よ

おお心よ、
もつと熱くなれ、
もつと踊れ、
もつと力強く押しすすめ。

おまへは
俺を改造しきれないで、
直ぐ勞れはててはだめだ。

おまへは一時
俺から抜出してみるのもよい。
そして囀る小鳥に、
とび駆ける獣に
青々と伸びあがる草木に闖入して、
何も知らない鳥や獣や草木が
結局一等よく生を生きて居ることを
俺に自覚させてやるがよい。
が、おまへは
俺の方へ帰ることを忘れてはならない。
おまへがそれから体験した
力強い腕で
俺にほんとうの生をもたらしてくれ。

おお心よ。
おまへはもつと熱くなれ
絃からながれる
スタカトとピチカト、
その歯切れのよい感触を、
心よ、俺にたぎらせよ。

深尾贇之丞
「天の鍵」所収
1921

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