われはきく、生れざる、はかりしれざる
子の声を、泣き訴ふ赤きさけびを。
いづこにかわれはきく、見えわかぬかかる恐怖に。
かの野辺よ、信号柱は断頭の台とかがやき、
わか葉洩る入日を浴びてあかあかと遙に笑ひき。
汽車にしてさてはきく、轢かれゆく子らの啼声。
はた旅の夕まぐれ、栄えのこる雲の湿に、
前世の亡き妻が墓の辺の赤埴おもひ、
かくてまた我はきく追懐の色とにほひに、
埋もれたる、はかりしれざる子の夢を、胎の叫を。
帰りきてわれはきく、ひたぶるに君抱くとき、
手力のほこりも尽きて弱心なやむひととき、
たちまちに心つらぬく
赤き子の高き叫を。
北原白秋
「第二邪宗門」所収
1909