● ●●●●●煙突
屋根
屋根
黒ずんだ屋根の下で
俺は麻酔者のやうな状態で
見えない鎖を
腰のまはりから引きち切つてゐる
獣のやうな瞳
四角の肩の下にある乳房
鹿のやうな女をつれた紳士
——腐れた肺が胸にせはしく動いてゐる
——頬つぺたの青い林檎色
両側から噴き出す食糧品と香水の匂ひ
俺は オモチヤのやうに
廻転つてゐる外景の下積みで
ア—————ア
●●●●●黒煙の街巷に
今日から
? ? ? ? ? ? ? ? ?
俺は 俺は 俺は 俺は 俺は 俺は
「キ―サ―マ―ハ―タレダ!!」
「摑首された
荒れた都会の川底に
蟹のやうに ネムルオトコ!」
「恐怖と\
\飢餓の食ひちがつた寝床で
墓場へ 墓場へ
ハイ ユカウトオモツテ
ユケナイ オトコ!」
ヅドンと 午砲が
腹部とアタマの頂点で鳴つた!
外景が凹んで
グルリと廻つた!
萩原恭次郎
「死刑宣告」所収
1925