熱風が吹いた
植物が繁茂する
昆虫が繁殖する
高温と多湿
植物が繁茂する
昆虫が繁殖する
熱帯性低気圧に
雨が白い渦をまく
植物が繁茂する
引越のために縛りあげる
縛りあげたままのわたし
縛られたわたしのあらゆる部分
乳房に
変化する
昆虫が繁茂する
朝は張って飲みきれない乳房が
ひっきりなしに吸うから
夜になるとしなびてしまって何も出ない
不信を
わたしを
ひっきりなしに吸うから
しなびてしまって何も出ないわたしを
不信を
わたしのおびただしい乳房を
よいおっぱいから
悪いおっぱいへ
悪いおっぱいに
赤ん坊達は復讐を企てている
雨が降るので乳房を食いたい
雲が走るので乳房を食いたい
風が荒れくるうので乳房を食いたい
雨が渦をまくので乳房を食いたい
雨がやんだら
おいしいやむいもが拾える
おいしいたろいもが拾える
おいしいむかごが拾える
おいしいあんこが
おいしいみのむしが
おいしいのみが
おいしい澱粉質が
両手に余るほど拾える
雨がやんだらおいしいたろいもが
両手に余るほど拾える
中尾佐助「農耕植物と栽培の起源」、メラニー・クイーン「羨望と感謝」から引用・参考箇所あり
伊藤比呂美
「テリトリー論1」所収
1987
伊藤比呂美さんの「悪いおっぱい」は作者の許諾を得た上で、掲載しております。
無断転載はご遠慮ください。
この詩を読んで興味を持たれた方は是非下記のサイトもチェックして見てください!
伊藤比呂美ツイッター
@itoseisakusho
ブログ
http://www.k-nakazawa.com/ito_hiromi/diary.cgi
知ったころ、なんだか画期的な詩だと、なんだかんだと感動しました。
エッセイの「良いおっぱい悪いおっぱい」読ませていただきました。原案はこちらからだったのですね。