雪の日、姉は膝をだいて、私の瞳になにを読んだか。
お前は恋をしたのだらう。
あわただしく、落葉のやうにあわただしく、私は手紙をしたためる。雪の日の街に出る、赤いポスト。
落葉の上を行く、舗道の上を行く。
鳴らないピアノ、舗道のピアノ。
マドリガル、私の恋歌、火のつかない私の煙草、
(海峡を見たか、あれから。私は海峡を、見たはたして。)
雪が来る、雪が来る。雪は時間の上にとまる。
津村信夫
「愛する神の歌」所収
1935
雪の日、姉は膝をだいて、私の瞳になにを読んだか。
お前は恋をしたのだらう。
あわただしく、落葉のやうにあわただしく、私は手紙をしたためる。雪の日の街に出る、赤いポスト。
落葉の上を行く、舗道の上を行く。
鳴らないピアノ、舗道のピアノ。
マドリガル、私の恋歌、火のつかない私の煙草、
(海峡を見たか、あれから。私は海峡を、見たはたして。)
雪が来る、雪が来る。雪は時間の上にとまる。
津村信夫
「愛する神の歌」所収
1935