幸福は
鳥のやうに飛ぶ。
自分の内から羽を生やして飛んで居る。
それをとらへよ。
空中にそれをとらへよ。
暖にそれをとらへよ。
手の内でも啼くやうに。
幸福はとらへるのが難しい
とらへても手の中で暖みを失ひ
だんだん啼かなくなつて死んでしまふ。
幸福は追ふな、とらへようとするな
そのまゝにしておけ。
人間の冷たい手をそれに觸れるな。
人間の息をそれに當てるな、
清淨な空氣にそれを離してやれ。
それを追ふな。
遠く消えて行つても心配するな、
幸福のみは
神の手にあれ、
生き暖き神の手にあれ
よみがへし給ふは神の息のみ
清淨な風と火の業にあれ。
千家元麿
「自分は見た」所収
1918