またある夜に

私らはたたずむであらう 霧のなかに
霧は山の沖にながれ 月のおもを 
投箭のやうにかすめ 私らをつつむであらう 
灰の帷のやうに

私らは別れるであらう 知ることもなしに 
知られることもなく あの出会つた 
雲のやうに 私らは忘れるであらう 
水脈のやうに 
 
その道は銀の道 私らは行くであらう 
ひとりはなれ……(ひとりはひとりを 
夕ぐれになぜ待つことをおぼえたか) 
 
私らは二たび逢はぬであらう 昔おもふ 
月のかがみはあのよるをうつしてゐると 
私らはただそれをくりかへすであらう

立原道造
萱草に寄す」所収
1937

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