さあ行かう、あの七里四方の氷の上へ。
たたけばきいんと音のする
あのガラス張りの空気を破って、
隼よりもほそく研いだこの身を投げて、
飛ばう、
すべらう、
足をあげてきりきりと舞はう。
この世でおれに許された、たつた一つの快速力に、
鹿子まだらの朝日をつかまう、
東方の碧落を平手でうたう。
真一文字に風に乗つて、
もつと、もつと、もつと、もつと、
突きめくつて
見えなくならう。
見えないところで、ゆつくりと
氷上に大きな字を書かう。
高村光太郎
1925