目をさますと虫がないている
もう秋だと夜明けの暗さのなかで僕は思う
誰にもくりかえされる感慨
くりかえされる事実
僕にとっては四十二回くりかえされる秋
ああ くりかえされる人生
僕の人生は僕にとっては一度だけの人生だが
人生というものは秋に虫の声というようなくりかえしではないか
それでもいい
くりかえされる感慨は軽くても事実は軽くない
くりかえしの人生を自分だけの人生にすること
するようにと無理に努めることなく自ずとそうなっているようにすること
自分に言いきかす言葉の しかし 軽いことよ
陳腐とはいえ不変の感慨の方がまだ重い
その重さを胸の上に感じながら僕は呟く
くりかえされる人生のなかの一度だけの人生
薄暗い空がだんだん明るくなる
物音とともに虫の声が聞こえなくなる
虫の声が消えると
くりかえされる人生のくりかえされる一日がはじまる
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1950
季節にふさわしい詩をありがとうございます。
胸にしみました。