髪を洗へば

髪を洗へば紫の

小草のまへに色みえて

足をあぐれば花鳥の

われに随したがふ風情あり

 

目にながむれば彩雲の

まきてはひらく絵巻物

手にとる酒は美酒の

若き愁をたゝふめり

 

耳をたつれば歌神の

きたりて玉の簫を吹き

口をひらけばうたびとの

一ふしわれはこひうたふ

 

あゝかくまでにあやしくも

熱きこゝろのわれなれど

われをし君のこひしたふ

その涙にはおよばじな

 

島崎藤村

若菜集」所収

1897

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