ゆさぶれ 青い梢を
もぎとれ 青い木の実を
ひとよ 昼はとほく澄みわたるので
私のかへつて行く故里が どこかにとほくあるやうだ
何もみな うつとりと今は親切にしてくれる
追憶よりも淡く すこしもちがはない静かさで
単調な 浮雲と風のもつれあひも
きのふの私のうたつてゐたままに
弱い心を 投げあげろ
噛みすてた青くさい核を放るやうに
ゆさぶれ ゆさぶれ
ひとよ
いろいろなものがやさしく見いるので
唇を噛んで 私は憤ることが出来ないやうだ
立原道造
「萱草に寄す」所収
1937