志摩の果安乗の小村
早手風岩をどよもし
柳道木々を根こじて
虚空飛ぶ断れの細葉
水底の泥を逆上げ
かきにごす海の病
そゝり立つ波の大鋸
過げとこそ船をまつらめ
とある家に飯蒸かへり
男もあらず女も出で行きて
稚児ひとり小籠に坐り
ほゝゑみて海に対へり
荒壁の小家一村
反響する心と心
稚児ひとり恐怖をしらず
ほゝゑみて海に対へり
いみじくも貴き景色
今もなほ胸にぞ跳る
少くして人と行きたる
志摩のはて安乗の小村
伊良子清白
「孔雀舟」所収
1905