友の家を訪ひたるに、
赤子の尿を漏せしとて、
ランプの火影のなか、
妻なる人は疊を拭くに忙し。
早や寝たかと思ひし友の、
起きて居し一室には、
食ふものも散らばりたり。
引く人もなき俥の
我れを乗せて何處ともなく、
右左搖れつゝ行けば、
廣き野の隅に出でたり。
枯草のなか二たところ
黑きものあると思ひし、
むくむくと動くを見れば、
それはみな數知れぬ鼠にして、
我れを見て逃げもせず……
此時に醒めし我が夢。
石井柏亭
1958
友の家を訪ひたるに、
赤子の尿を漏せしとて、
ランプの火影のなか、
妻なる人は疊を拭くに忙し。
早や寝たかと思ひし友の、
起きて居し一室には、
食ふものも散らばりたり。
引く人もなき俥の
我れを乗せて何處ともなく、
右左搖れつゝ行けば、
廣き野の隅に出でたり。
枯草のなか二たところ
黑きものあると思ひし、
むくむくと動くを見れば、
それはみな數知れぬ鼠にして、
我れを見て逃げもせず……
此時に醒めし我が夢。
石井柏亭
1958