木犀の匂ひ 木犀が咲き出すと 水晶製の空気がどこからともなくながれてきて すべるやうに音なくながれてきて 時によるとほかのものがみんな消えてしまつて ただ木犀の匂ひだけが 地球のうへをながれてゐることがある 高橋元吉 「高橋元吉詩集」所収 1962