Ⅰ
日曜日―僕らは幸福をポケットに入れてあるく 時々取出したり又ひっこめたりしながら 磨かれた靴 軽い帽子 僕らは独身もののサラリイマンです さうして都会よ 君はいつでも新刊書だ オレンヂエエドの風のあとに 見たまへあの舗道の上 またもプラタヌの並木の影はいつせいに美しい詩を印刷する 爽やかな拍手とともに
Ⅱ
百貨店―エレベエタアよ 気が向いたら地獄まで墜ちてくれたまへ 天国まで昇ってくれたまへ―ここは屋上庭園だ 遠い山脈 そして青空とアドバルウン ああ今僕らは感じる あの金網の動物たちよりももつと悲しく 都会よ 君の巨きな掌に囚へられてゐる僕ら自身を
木下夕爾
「田舎の食卓」所収
1939