夕方私は途方に暮れた

 夕方、私は途方に暮れた。

海寺の階段で、私はこっそり檸檬を懐中にした。

 

──海は疲れやすいのね。

 

女が雪駄をはいて私に寄添った。

帆が私に、私の心に還ってくる、

記憶に間違いがなければ、今日は大安吉日。

海が暮れてしまったら、私に星明りだけが残るだろう。

 

それだのに、

夕方、私は全く途方に暮れてしまった。

 

津村信夫

「愛する神の歌」所収

1935

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください