汽車は二度と来ない

わずかばかりの黙りこくった客を

ぬぐい去るように全部乗せて

暗い汽車は出て行った

すでに売店は片づけられ

ツバメの巣さえからっぽの

がらんとした夜のプラットホーム

電燈が消え

駅員ものこらず姿を消した

なぜか私ひとりがそこにいる

乾いた風が吹いてきて

まっくらなホームのほこりが舞いあがる

汽車はもう二度と来ないのだ

いくら待ってもむだなのだ

永久に来ないのだ

それを私は知っている

知っていて立ち去れない

死を知っておく必要があるのだ

死よりもいやな空虚のなかに私は立っている

レールが刃物のように光っている

しかし汽車はもはや来ないのであるから

レールに身を投げて死ぬことはできない

高見順

死の淵より」所収

1964

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