椰子の実

名も知らぬ遠き島より

流れ寄る椰子の実一つ

 

故郷の岸を離れて

汝はそも波に幾月

 

旧の樹は生ひや茂れる

枝はなほ影をやなせる

 

われもまた渚を枕

孤身の浮寝の旅ぞ

 

実をとりて胸にあつれば

新なり流離の憂

 

海の日の沈むを見れば

激り落つ異郷の涙

 

思ひやる八重の潮々

いづれの日にか国に帰らん

 

島崎藤村

落梅集」所収

1901

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