初恋

まだあげ初めし前髪の

林檎のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛の

花ある君と思ひけり

 

やさしく白き手をのべて

林檎をわれにあたへしは

薄紅の秋の実に

人こひ初めしはじめなり

 

わがこゝろなきためいきの

その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃を

君が情に酌みしかな

 

林檎畑の樹の下に

おのづからなる細道は

誰が踏みそめしかたみぞと

問ひたまふこそこひしけれ

 

島崎藤村

若菜集」所収

1897

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