傷ついて、小さい獣のように

心は 歌は 渇いている 私は 人を待っている

私の心は 貧しきひとを 私の歌は 歓びを

もの欲しい不吉な影を曳き 私は索めさまよっている

千の言葉をよびながら 見かえりながら歌っている

 

獣のように 重くまた軽く 私はひとり歩いている

日はいつまでも暮れないのに 私はとおくに

不幸な穉いこころを抱き 私は求め追うている

口ぜわしく歌いながら 繰り返しながら呼んでいる

 

雪は 道は 乾いてしまった 私は人を呼んでいる・・・・・・・

それは来るかしら それは来るだろう いつかも

くらい窓にたたずんで 私は 人をたずねていた

 

だあれも答えない 誰も笑わない 私はひとり歩いている

最後の家の所まで 私はとおくに 日はいつまでも暮れないのに

私はひとり歩いている 私はとおくに歩いている

 

立原道造

立原道造詩集」所収

1939

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください