Category archives: 1920 ─ 1929

心よ

こころよ

では いっておいで

 

しかし

また もどつておいでね

 

やつぱり

ここが いいのだに

 

こころよ

では行つておいで

 

八木重吉

秋の瞳」所収

1925

うつくしいもの

わたしみづからのなかでもいい

わたしの外の せかいでも いい

どこにか「ほんとうに 美しいもの」はないのか

それが 敵であっても かまわない

及びがたくても よい

ただ 在るといふことが 分りさへすれば、

ああ、ひさしくも これを追ふにつかれた こころ

 

八木重吉

秋の瞳」所収

1925

おうい雲よ

ゆうゆうと

馬鹿にのんきそうじゃないか

どこまでゆくんだ

ずっと磐城平の方までゆくんか

 

山村暮鳥

」所収

1925

しゃぼん玉

しゃぼん玉 とんだ

屋根までとんだ

屋根までとんで

こわれて消えた

 

しゃぼん玉 消えた

飛ばずに消えた

うまれてすぐに

こわれて消えた

 

風 風 吹くな

しゃぼん玉 とばそ

 

野口雨情

1922

春よ来い

春よ来い 早く来い

あるきはじめた みいちゃんが

赤い鼻緒の じょじょはいて

おんもへ出たいと 待っている

 

春よ来い 早く来い

おうちのまえの 桃の木の

蕾もみんな ふくらんで

はよ咲きたいと 待っている

 

相馬御風

1923

 

証城寺の狸囃子

証 証 証城寺

証城寺の庭は

ツ ツ 月夜だ

皆出て来い来い来い

己等の友達ア

ぽんぽこぽんのぽん

 

負けるな 負けるな

和尚さんに負けるな

来い 来い 来い 来い来い来い

皆出て 来い来い来い

 

証 証 証城寺

証城寺の萩は

ツ ツ 月夜に花盛り

己等は浮かれて

ぽんぽこぽんのぽん

 

野口雨情

1925

赤い靴

赤い靴 はいてた

女の子

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

横浜の 埠頭から

船に乗って

異人さんに つれられて

行っちゃった

 

いまでは 青い目に

なっちゃって

異人さんのお国に

いるんだろう

 

赤いくつ 見るたび

考える

異人さんに逢うたび

考える

 

野口雨情

1922

赤蜻蛉

夕やけ子やけの

赤とんぼ

負われて見たのは

いつの日か

 

山の畑の

桑の実を

子籠に摘んだは

まぼろしか

 

十五で姐やは

嫁に行き

お里のたよりも

絶えはてた

 

夕やけ子やけの

赤とんぼ

とまっているよ

竿の先

 

三木露風

真珠島」所収

1921

黄金虫

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

飴屋で水飴 買って来た

 

黄金虫は 金持ちだ

金蔵建てた 蔵建てた

子供に水飴 なめさせた

 

野口雨情

1922

 

ぼろぼろな駝鳥

何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。

動物園の四坪半のぬかるみの中では、

脚が大股過ぎるぢやないか。

頸があんまり長過ぎるぢやないか。

雪の降る国はこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢやないか。

腹がへるから堅パンも食ふだらうが、

駝鳥の目は遠くばかり見てゐるぢやないか。

身も世もない様に燃えてゐるぢやないか。

瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまえてゐるぢやないか。

あの小さな素朴な頭が無辺大の夢で逆まいてゐるぢやないか。

これはもう駝鳥ぢやないぢやないか。

人間よ、

もう止せ、こんな事は。

 

高村光太郎

1928