知らない町を歩いてみたい

とうかえでの細い木に小さな蟻が
無数にのぼったりおりたりしていた
蟻は何度ものぼったりおりたりした
蟻はとうかえでの甘い汁をなめたり運んだり
しているのだろうか?
ほんの少し感じるか感じないかの雨がふっているのに
蟻はのぼったりおりたりするのをやめなかった

バスはなかなか来なかった
一時間に一本か二本のバスは
看護学校入口前のバス停に二分も遅れてやって来た
バスが来ると霧のなかに無限にひろがる
新しい町が始まった

お茶畑と教会と電気屋の向こうに

美しいさまざまな木が植えられている畑があった
この町に引っ越して来てから
わたしはしきりに「じゃがいもを喰う人々」の
ヴァン・ゴッホのことを思い出した
ゴッホは何であんな風にたくさんの絵を
描いたのだろう 誰かを幸せにするために、と
言ったひとがいた

朝起きると私の部屋の窓から
ゆっくりと横たわる低い山のような丘陵のようなものが
わたしをうけいれてくれるような気がした
あんなに低い緑の山々がまるで昼寝でもするように
見えた

遠い国で生きているわたしの友達と話している
気にもなった
認知症にかかり パリから少し離れた施設に入った友達と
話している気になった
わたしも彼女も少しぐらいさびしくても
生きてはいけないということはないだろう

鈴木ユリイカ
詩誌「妃」18号所収
2016

One comment on “知らない町を歩いてみたい

  1. 「知らない町を歩いてみたい」は鈴木ユリイカさんの許諾をいただいた上で掲載しております。
    無断転載はご遠慮ください。

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